称えられる死者

有名な人が亡くなると、その人を再評価する記事や意見を多く見ることがある。訃報によってその人のことを思い出して書く、というだけならともかく、肯定的な意見が多くなるのはどうしてだろう。死者に口なし、死者に暴言を吐くとそのまま返ってくる、という情緒面での説明もあるがもっと構造的な理由があったりはしないだろうか。自分のことから考えてみるに、よほどファンでもない限りは、普段は有名な人に対して「有名であるという事象」「その人を評価している雰囲気や時勢」を読んだり考えたりしているのではないかということがある。有名な人と一対一で向き合ってその人について考えるのではなくて、その周囲にある評判や意見に触れ、それについて考えているということだ。普段、その情勢だけを見ていれば良しと思っていたのが、亡くなった場合、その人が直接自分にとって何だったのかを考えなければいけないような気分になってしまう。普段から向き合っている人はともかく、そうでない人にとっては、評判や雰囲気にネガティブであっても、その人自身に急に向き合うと、相対的にポジティブな評価になるのではないだろうか。つまり、その人を取り囲む文脈が一斉に消滅するので、急に直接向き合うということなのではないか。