仮考察(フィクション)

あのころは地域のコミュニティがあった。その地域での名士がいて、その人にあこがれ、地域ではずれたことをすると村八分状態になったものだ。だから、地域のしきたりや、お隣さんが何をしているのかを気にしたものだ。その後、地域が薄くなっていき、知らない人が周りに住んでいることが普通になった。その代わり、どこかにいるであろう「われわれ」がテレビや新聞で見られるようになった。私の基準は地域ではなくテレビや新聞になった。実際に「われわれ」がいるかどうか不安だったが、とにもかくにもみんなが「われわれ」を信じていたし、私もそうした。ところがいつのころからか、「われわれ」はどこにもいないではないかというような気がしてきた。事実を拾っていくと、正しいと思っていたことがそうではなくなり、既存の社会構成も音を立てて崩れだした。私のもとにはもうお隣さんも、「われわれ」もいないのではないかという気がしてきた。私は自由になったのかもしれないが、その自由は私には上等すぎて難しかった。気づくと私の手元には情報ツールがあり、知人や友人の行動が見えるようになった。私は彼らとの関係性で自分をはかるすべを手に入れた。結局いつも私は権威付けされた序列を必要としていた。それが実際の権力であるか目に見えるものという権威付けか何かは問わない。それを生むのは孤独という病なのかもしれない。